最近読みました(Vol.12)
|【不定期連載 社長’s Bookレビュー】
『邂逅の森』 熊谷達也・著 (文藝春秋)
一人の少年が、本当の意味で一人前のマタギになっていく様を書いたこの物語は、東北方面の風俗を描いて定評のある著者の技量の光る作品に仕上がっている。
直木賞は当然と思わせる。
マタギの生活を書いているのであるから、冬の山の厳しい姿や、狩りの大変さなど、沢山のエピソードが書かれている。
主人公のほぼ一生を描いたといってもよい中にあって、決して順風満帆とばかりにいかないことも多く、鉱山で働いたりもするのだが、これはマタギの世界ばかりでなくともいつでもどこでも起こり得る苦労のようにも思える。
森を中心にした表題の『邂逅』、その意味においての主人公との人間模様は、読む者をぐいぐいと、それこそ森の中に引き込んでいくようで、その魔力にかかり実に楽しく読むことが出来た。
半生も過ぎ、ほぼ成功したといってもよい人生の最後に追う熊との対決は、負けてもよいとの決意で一人山に入るのであるが…。
相手は山の神とも山の主ともマタギ連中に言われていた熊で、長い間「あいつにだけは負けたくない、あいつにだったら負けてもよい」といった、言葉に出来ぬ信頼のようなものが伝わってきて心打たれる。
恐らくきっと熊の方でもそう思っていて、マタギ=主人公の目にする風景に至る。
読んでいる私もまた、その時確かにその風景を観るのだ—。
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