最近読みました(Vol.4)
|【不定期連載 社長’s Bookレビュー】
『隠蔽捜査』 今野敏・著 (新潮社)
普通今迄は警察小説と云うと、事件があってそれを追う刑事物が多く、刑事の個性や犯人の人間性や捜査の苦心など、その解決に向かっての過程に色々な人間関係を絡め、犯行とのかけ引きを描いたものが多い。
今迄の概念で、今回のものもそんなふうだろうと思って手に取った。
ところが、キャリア対ノンキャリアといった警察署内部の人間関係を中心にした「警察小説」の傑作といってもよいまとまりで、読み出すと最後まで一気に読んでしまう。
勿論、警察小説である限り事件は起きていて、捜査も行われているが、それはこの物語の本筋ではなく、現場を指揮するノンキャリアの部長と警察庁のキャリア課長との心の葛藤を中心に、警察庁内部の人間関係を絡めて物語は進展する。
キャリア課長の家族の問題も、「私達ならどうするだろう」といった問いとして提起されていて、この物語のように出来るだろうかと思わせる。
物語の中で国松孝次警察庁長官狙撃事件が引用されている。1995年当時オウム真理教の犯行であるとの見方が強かった事件は、すっきりした形で解決していないと記憶しているし、またその様に書かれてもいる。
そんなことはないと思うが、狙撃犯が解っていても、一般社会にすっきりした形で解決していないとすれば、そこに何か作為が働いたのではないかと思わせる書き方には大変説得力がある。
警察庁内部の人間関係を軸に、課長の部下の台詞も心を打つ。
キャリア課長の家族の問題を絡めて大変良くまとまった、著者快心の、読み応えのある一冊と云える。
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