最近読みました(Vol.2)
|【不定期連載 社長’s Bookレビュー】
『下山事件 最後の証言』 柴田哲孝・著 (祥伝社)
昭和24年(1949)、初代国鉄総裁の下山定則が三越本店から姿を消して、翌7月6日の早朝に足立区の常磐線上で轢死体となって発見された。
戦後間もない頃の誰でもが知っているミステリー事件で、これ迄も「下山事件」として週刊誌のみならず沢山の出版物も出ている。
代表的なものをちょっと挙げてみよう。
事件直後から報道でコンタクトしていた朝日新聞記者矢田喜美雄の書いた『謀殺 下山事件』(1973)、毎日新聞記者平正一の書いた『生体れき断』(1964)、GHQ・米軍謀略の疑惑を書いた1960年の松本清張『日本の黒い霧』。
斉藤茂男は共同通信社で、菅生事件の調査の過程を書いて下山事件との関連が出てくる『夢追い人よ』(1989)。
更に『下山事件全研究』(1976)は佐藤一が自殺の方向で発表している。
事件自体がすっきりした形での解決をしていないだけに沢山の推理推察がある。大方の見方としては状況から他殺の方向を示していたが、何故か捜査のみが自殺の方向に進み、事件は結論の出ぬまま自殺として終わってしまう。
長い時間が過ぎ、本当に過去のこととなりつつある中にあって、戦後60年も経って決定的とも言える本が出版された。
今から56年も前のことであっても「下山事件」としては数冊の本を読んできた私が、「最後の証言」というサブタイトルに惹かれ購入してみた。
他殺説を採るあらゆる本が三越近くのライカビルとの関係を示唆していたことを覚えている。
(GHQ)キャノン機関の入っていたライカビルの2階に亜細亜産業という日本の会社があり、元特務機関員だった著者の祖父が在籍していた。23回の法要の時に妹である叔母が、「もしかしたら下山事件をやったのは兄かもしれない」と言ったのを聞いて、祖父の死亡時14才であった柴田哲孝が、悪い方に進めば大好きな祖父を本当に事件の実行犯にしてしまうかもしれないという覚悟で調査した力作であり、証言者が続々と世を去っていく中、最後の証言として大変貴重な下山事件の資料的性格のハードな本である。
著者は数々の証言の検証を通して、この事件の全貌を解明していく。
私は読み終わって、孫である著者が尊敬していた大好きな祖父のことを解って何かホッとしている姿を想い、下山事件とは別に安心した。
恐らくこの本はこの事件における決定版であり、これから後「下山事件」に関する本を購入することはもうないと思う。