最近読みました(Vol.3)
|【不定期連載 社長’s Bookレビュー】
『飢餓の娘』 虹 影(ホン イン)・著 / 関根謙・訳 (集英社)
1962年生まれの虹影の自伝小説である。著者自身の過去が克明に書かれている。
1959年からの大飢饉では彼女の故郷四川省で700万人の餓死者が出た事とか、文化大革命が始まった時4才で、その革命が終わった時14才だった彼女の、そんな日常と学生時代を含め、生活を淡々と書いた成長の記録である。
著者第三作目の小説であり、自身言うように、自分にとって最も大切で一番好きな作品だという通りに、彼女の歩いた日常が日記のように綴られ、父や母、兄や妹の様子などを折り込んで生活が目に浮かぶ。
いつも自分を陰から見守る視線を感じながら、推理小説の要素も盛り込んで、読む者を決して飽きさせることがない。
日本でも東京オリンピックを境にものすごい近代化が進行したことは異論のないところで、それ以前を知る立場で読むと、彼女の居た当時の中国の状況が本当によく解る。
一人の女性が生まれ、成長していく過程を記録しているだけの題材なのに、読み出すと最後まで読まないと納得出来ないのは日本語訳をされた関根謙氏の手腕と適切な文体に負うところが大きい。
4年ほど前私は上海に行ったことがあるが、この本を読んでから中国に行っていたら又中国の見方が少し違って観えたかもしれないと思われるが、2004年の出版ではやむを得ない。
最近結婚式の引き出物にカタログ選択のものを頂いたが、その中をちょっと見ても何と中国製品の多いことか。
立ち止まって、ほんの少し前に遡るだけで、日本も、中国もと考えさせられる素晴らしい本である。
もし中国に行く予定がある人なら、ぜひ読んでから行ってほしい本の一冊である。そう思った。
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